AIJ投資顧問という「投資一任業者」による約2,000億円もの企業年金消失事件が話題です。 現時点での各種報道を見てる限り、本質をはずした言説も多々あるため、投資家の目線で問題を整理してみようと思います。まず、本事件の大枠イメージは、このようになります。

AIJのケース2


*上記図は説明用に要点のみで簡略化しています。
年金と 投資一任業者たるAIJ投資顧問と信託銀行とのより正確な契約関係はこちら日経2月26日「AIJ問題、信託・企業年金も調査」 


◆まず何が問題の本質なのでしょうか?

ケイマンが悪いのか?
・時事通信 「租税回避地ケイマンを通じて運用」(2012年2月25日)

⇒ 世界中の船がパナマ籍なのと同様に、いわゆる海外ファンドは通常ケイマン等のオフショア地域で組成されることが多いです(これを国内で組成した投資信託と区別して、オフショアファンドと呼びます)。ケイマンのオフショアファンドは通常、脱税の意図はなく、単にファンド組成コストを安くして、最終的な投資家のリターンを高めるための仕組みに過ぎません。

単なる手段であるところのケイマン島のファンドビジネスの仕組みに焦点を当ててこの問題を煽るのは多少筋違いといえます。なお、ケイマンはとっくにOECDのブラックリストからはずれており、同国は脱税防止に動いています。

国が悪いのか?監督機関の金融庁が悪いのか?
・日経新聞 「投資顧問への監督強化検討 岡田氏、AIJ問題へ」(2012年2月25日)

⇒AIJ投資顧問を見逃した国・行政の責任を追及する声もあります。しかし、「投資顧問業者という事業者全員」への監督をどう強化したところで、投資家から資産運用を任されている他の優良な投資顧問業者(投資一任業者)たちの事務コストが嵩むだけです。

規制強化のコストは、最終的には国内の投資家(年金や個人投資家)が負担することになります。投資家だけの問題ではなく、行政の規制強化のための軍資金や人件費は、結局、国民の税金から賄われます。

AIJ(運用者・一任業者)の何が悪いのか?
・ウォールストリートジャーナル「年金専門誌が09年に「日本版マドフ」と警告 AIJ運用資産消失問題」(2012年2月25日)

⇒ AIJ投資顧問という一任業者は、投資家から運用を一任してもらい有利に運用するのが仕事でした。
米国のマドフ事件の場合には、ポンジースキームであり、はじめから正真正銘の詐欺でしたが(本人が罪を告白済)、一方で AIF投資顧問の運用実態が詐欺だったのか、単に運用の失敗だったのかは現時点では判明しません。

もしも「他人から集めたお金の運用が失敗したら詐欺だ」という話になってしまうと、広く国民からお金を預かって運用して、後から「ごめん、マクロ環境変わっちゃった。実は1954年生まれ以降の人には、君が払った分より少ない分しか将来は返金できない」という日本の年金制度の方が、強制的に資金を集めている分だけ(税金や社会保険料)、マドフよりもっと悪質な詐欺ということになります。  

ただAIJ投資顧問を詐欺には問えないにしても、AIJが明確に悪質だったのは、「虚偽報告の疑いが濃厚」な点です。つまりありえない運用成績というわけです。投資家に謡っていた利回りは200%だそうです(FNNニュース)
しかし、これは正直、このリターンを信じた年金運用担当者のスキルが低いといわざるを得ません。


結局、「運用委託先(運用会社・一任業者)を選ぶ目」が無かった投資家(この場合は
中小企業の年金基金の担当者)のスキル・判断能力が足りなかったということです。

結局、本事件の本質は、「投資家の無知」です。このような事件を防ぐには
投資家自身が目を鍛える他ありません。つまり結局、金融リテラシーの向上しかないのです。

◆結局、自分でまともな運用会社を選ぶしかない。では具体的にどうやって?

まずはこの時代、無知を開き直り、「投資は怖いから」と国内預金だけしているわけにはいきませんし、
特に、リーマンショック以降、株・債券・不動産と何を買っても損をしてきて、「結局、分散投資理論なんて机上の空論に過ぎないよ。全部下がったじゃないか!」と泣いている投資家も多いはずです。

今は年金基金だけでなく、普通の個人投資家ですらも、相場に左右されない「絶対収益」を求めて、
直接、海外ファンドを購入する時代になりました。
日経ビジネス2012年2月13日号 資産逃避 日本を見限る個人マネー
日経ヴェリタス2012年2月19日 オフショアファンド・・現地で「直接投資
」)

そんな時代だからこそ、万人が「海外ファンドや運用会社を見極めるノウハウ」を身につける必要があります。

そこで、投資家が虚偽業者・虚偽ファンドを見分ける3つのチェックポイントをご提供したいと思います。


投資家が虚偽業者・虚偽ファンドを見分ける3つのチェックポイント


‥蟷颯侫.鵐匹離好ームの透明性

AIJ投資顧問やマドフ事件のように悪質な虚偽業者のスキームには特徴があります。この本来あるべき姿からかけ離れていることです。
AIJあるべき姿2


投資家のお金は、ケイマンの「海外ファンド」を通じて、ファンドマネージャーの自由に様々な対象に投資されます。もし、自称天才ファンドマネージャーが「昨日アップル株を買って、今日アップル株を売って、差益で儲かった」と嘘をついたとしたら、投資家は確認できません。そこで、ファンドマネージャの嘘・不正を防止するために第三者でファンドの周りを固める必要があります。

まず、カストディアン(資産管理会社:UBSやドイツ銀行等大手銀行)を用いて、投資家の資金が運用業者と分別管理します。これでファンド運用者による投資家資金の持ち逃げを防止します。次に、アドミニストレーター(事務管理会社)がファンド資産の取引記帳や値洗を独立して行い、ファンドマネジャーの「自称儲かった発言」を封じます。同時に、プライムブローカー(証券会社)が間に入り取引執行を行うことで、偽の売買報告が無いようにします。

マドフ事件では、実質的ファンドマネージャーであるマドフが「マドフ証券」を運営しており、且つ、運用報告もマドフがやっていたため嘘が可能になりました。
AIJ投資顧問も同様に、ファンドマネジャーであるAIJ(ケイマンのAIJ)による自作自演の「驚異的なパフォーマンス」を謡うことを許しました。

投資家は自分が投資対象としている「ファンド」を取り囲むカストディアン、アドミニストレーター、プライムブローカーの有無は、投資前に絶対確認した方がいいでしょう。

虚偽運用会社は「コスト削減のために、そのような第三者を介在させずに運用しているのです」と言うのが常套句です。しかし、耳を貸してはいけません。


当該運用者(ファンドマネージャー)の実績、世界における評判


もし誰かが年率15%以上で運用できる腕があり、もしそれが本当なら、運用業者として世界的に権威のある雑誌や新聞のランキングに必ず何年間も顔を出しています。

たとえば、これは世界のヘッジファンドランキングなのですが(BloombergTop100Performing) 

HFTOP100


概ね、毎年、年率15% 以上を出せているファンドや運用業者は、世界ランキング10位以内に入ってしまうわけです。

なお、世界トップ運用業者は皆、装置産業なみの大規模な情報システムでリスク管理をしています。年金運用担当者は、AIJが本当にそんな世界トップ運用会社だと思ったのでしょうか。

従って、世界ランキングに顔を出さない運用業者の、派手なパフォーマンスは虚偽と疑っても問題ないでしょう。

なお、AIJは、国内年金専門紙のランキングに登場していて、それを参考にして年金担当者さんはAIJを信じてしまったそうです。それを鵜呑みにするのは甘いといわざるを得ません。
こと資産運用については日本は21年は遅れています(アメリカは証券自由化は1975年、日本は1996年) 資金を他人に預けることに関する意識がまだ低いと言われても仕方がありません。


私は仕事柄、ランキングトップ10に出てくるような著名なヘッジファンド運用会社たちと日々ミーティングをしています。そこではしばしばマドフ事件を教訓にしたスキームの話がでます。海外運用業界ではマドフ事件を教訓に、以後は非常に洗練されており投資家保護が図られています。


E蟷饌仂櫃氾蟷餡函兵分)の間に、余分な中間業者がいないか

年金にしろ、個人投資家にしろ、AIJのような事件が起こるほど、自分だけはより信頼できるマネージャーに資産運用を任せたくなります。「自分の資金を託すのは海外一流ファンドのファンドマネジャーだけ」。こういうポリシー(投資基準)も持つのは望ましいことではありますが、それだけではまだ不十分です。

「海外ファンド」と「投資家である自分」の間に、余分な中間業者が一切介入していないこともポイントになります。

この図は、個人が海外ファンドやヘッジファンドを直接購入する場合の理想的な流れになります。
AIJあるべき姿個人


世間でしばしば誤報されているのですが、海外投資をするために、HSBC香港口座開設やオフショアファンドブローカーなどを介在させる必要は全くありません


最近、近年、日本の金融庁の登録を取らずにファンドの違法営業・勧誘をする海外無登録業者(ブローカー)が急増し最近、問題になっていますから注意が必要です(金融庁:海外の無登録業者による勧誘に注意

まともな海外ファンドなら、日本に居ながら直接投資ができます(ダイヤモンドザイ2012年4月号 「世界の好成績ファンドにアクセスしたいなら・・海外ヘッジファンドは直接買える?」)

もちろん、上記3つのチェックポイントは、ファンド・運用業者をチェックする上での最低限に過ぎません。運用が成功するかどうかは神のみぞ知る、です。それでも、虚偽業者を避ける簡単にチェックができますのでご活用くださいませ。このAIJ事件をきっかけに世の中の金融リテラシーがアップすればと願っています。

参考:「日本の個人資産運用における課題とその解決策〜富裕層向け投資アドバイザリーの現場から〜アブラハム・プライベートバンク>

参考:NHK富の攻防(年金担当者とヘッジファンド)