高岡壮一郎 九州大学非常勤講師」と書かれた招待状を頂き、今年も九州大学の非常勤講師として学生に対する起業教育の一環で、登壇させて頂きました。

「マンションの一室からベンチャー企業を立ち上げ、テレビCMを打つほどに急成長し、絶好調の所から、昨年、業務停止処分を受け、苦しい期間を乗り越え、現在、業務再開したばかり」というアブラハムをケース・スタディーの題材にして、先生が学生に説明し、そのあとに傷痕が生々しい経営者本人の私が登場するという形式で、学生から活発な質問がありました。

反省すべき点や、経営課題、苦労した経験をざっくばらんにお話をした結果、逆に「起業にポジティブになった!」との感想を頂戴したのが嬉しかったです。

講義でお話したことをベースに、内容をご紹介します。

アブラハムの躓きについて、経営者としての反省は、2点ありました。

1点目は、私自身が日本という社会において、行政と法律と国民の関係についての理解が不十分だった点を反省しています。

新しいことにチャレンジしようとした場合、当然にその国の行政法令・規制を遵守する必要がありますが、日本のことを、「アメリカのようなルールが明確な自由闊達な国である」と誤解してはいけないわけです。

どういうことかと言いますと、まず、英米法(アメリカの法体系、法の支配を優先し行政を牽制)と大陸法(日本の法体系、行政を優先)の違いを理解する必要があります。

英米法が通用するアメリカ等では、判例でダメと明確に書いてあること以外は、基本的に新しいことを何をやってもOKとなります。他方で、日本のような大陸法の国では、「法令でやってもいいと書いていること」以外をやると、つまり前例のない新しいことをやると、いきなり規制を適用されて、NGになってしまうリスクがあるのです。

具体的には、米国でネット選挙が1992年に始まったのは、「ネットを使った選挙活動をNGとする明文が無かったから」ですね。逆に20年後の2013年まで日本でネット選挙が解禁されなかったのは、「ネット選挙が良いという法令がまだ無かった」からで、時代にあった法令ができるまで、議論開始から15年以上かかりました。

私がアブラハム・プライベートバンクの前例の無いビジネスモデルを構築する時には、出来たばかりの金融商品取引法を確認し、法令上に明確な記載が無かった為、自分なりに慎重に考え、多額の費用を使って三社もの大手法律事務所に相談しており、その上で、この新事業のビジネスモデルは行政的に大丈夫だと考えていました。その判断の前提として、行政の規制緩和が政治テーマになる昨今の時代の流れを認識していました。

その上で、「日本の個人投資家がダイレクトに海外ファンドにアクセスできれば、個人投資家の投資機会が豊富になる。このグローバルなビジネスは、日本国民のためになる」と本気で信じて、お客様に支えられこの事業を5年3カ月も継続してきました。特に後ろめたいこともないため、放送局の審査でOKを取り、テレビCMも流しました。

その事業がよもや行政処分で業務を突然止められるとは、経営者としては全く思っていませんでした。もし自社の事業が行政から見て何か問題があるのであれば、国民にとっての不利益処分を行政が突然に下す前に、法令の明文を前提に、事前に「こうしたら?ああしたら?」という行政指導があると聞いていたからです。

ですから、日本経済新聞に「アブラハム、行政処分の勧告へ」と出たとき、誤報かな?と思い、わざわざ自社のHPで「そのような事実はありません」とコメントを出した翌日に、本当に勧告が出て、ショックのあまり、完全に力果てた感じになりました。

自社に取材が殺到しましたが、充分に対応する時間もとれず、「大手投資助言会社アブラハムプライベートバンク、業務停止処分6か月間」と、日本経済新聞の一面やNHKでも大きく報道されました。


そして、その報道での扱いの大きさから、まるでアブラハムの顧客の投資金が消失したのか?被害者がいる犯罪なのか?この後、大きな事件に繋がるのでは?というレベルの憶測・誤解が世間に広まり、非常に苦労をしました。 


6か月間業務停止という重い行政処分の主因は、ビジネスモデルに係る業法上の登録の問題でした。

”金融商品取引法違反”と言えば、ライブドア事件や村上ファンド事件のように「犯則事項」で刑事罰や罰金刑があるものもあれば、アブラハム・プライベートバンクの登録の件のように「犯則事項では無い」ものもあり、悪質性という観点からは両者には非常に大きな差があるのですが、一般の方には区別はつきません。

登録の問題以外に、広告の記載内容についても2点、当局よりご指摘を受けた為、まるで、「本当は存在しない高利回りのファンドがあると言って、完全に虚偽の情報を元に顧客を勧誘したから、アブラハム・プライベートバンクは重い処分を受けたのだ」という誤ったイメージになり、連日のように正確な状況説明と、謝罪に明け暮れました。

業務停止処分の背景として、”弁護士も唸るような”業法上の法令解釈論があったとの日本経済新聞の記事が出ました。

日本経済新聞 2013年10月7日 「紹介」と「勧誘」の線引きは? 

「助言業全体に影響するかもしれませんね」。都内大手事務所に在籍する金融商品取引法に詳しい弁護士は3日夜、うなった。証券取引等監視委員会が発表した投資助言業者、アブラハム・プライベートバンク(東京・港)への行政処分勧告文を読んだためだ。(中略)論争が起きたのは、金商法で「紹介」と「勧誘」の違いが曖昧になっていることにも原因がある。解釈に迷う条文も多い。今回、当局は検査結果を通じて法令違反か否かの線引きを出した形だ。



この記事の通り、助言業界全体の話となり、アブラハムと同日に業務停止となった同業他2社に続き、海外ファンドを個人向けに助言する各社が次々と業務停止処分となっていきました。明文化された法令ではなく、検査結果という行政判断で、国民の経済活動が止められてしまうのが、大陸法体系の日本社会というわけです。最終的には、当社に前後して、9社もの同業者が業務停止処分となってしまいました。

そういう日本社会の姿は、あとあとになって、大手証券会社社長や、政府系金融機関の幹部、キャリア官僚、政治家、ベンチャー経営者、プライベートエクイティのパートナー等の多くの方から、アブラハム業務停止の件について色々親身なアドバイスを頂く中で、自分自身、やっと理解が進んできたわけですが、当時の私にとっては「2010年代の資本主義国の日本で、こんな理不尽なことが現実に起こるのか?」という気持ちでした。
 

行政処分の報道の日、深夜に帰宅した際には、生まれて初めて、自宅のドアの前で倒れました。そのままそこで寝ていたのですが、家に帰らない私が文字通り帰らぬ人になったのではと、家族に心配をかけてしまいました。

そんな経験から、起業を志す学生さんへのアドバイスは、日本でベンチャーをやる場合は、規制当局への事前の相談が必須だということです。

たしかに、「薬のネット販売」の可否をめぐって規制当局と裁判までおこして、最高裁で「国の規制のほうが、違法」という判決をもらい、規制当局に勝ったケンコーコム後藤社長の例もあります。新聞広告で世論に監督官庁の非を問い、新規事業の宅急便を認めさせたクロネコヤマト小倉社長の例もあります。

法令違反を承知で国民の為に石油を運んだ出光社長(「海賊と呼ばれた男」のモデル)の例もあります。グーグルヤフーも、色々乗り越えてきました。

起業を志す学生さんからすると、そういう事例が頭にあるだけに、社会を良い方向に変えたい気持ちが先走り、自分の新事業を認めない行政・規制は時代遅れだ、おかしい、と思うかもしれません。

特に、「グローバル」「インターネット」の領域は新しいので、「国の規制」と「新しい顧客ニーズ」が衝突することもしばしばです。

しかしながら、日本はアメリカと違って、大陸法なんですよね。英米法的な「法の支配」「法律が行政を統治する社会」では無いわけです。よって行政がNGを出してくると、非常に難しいです。法の上に行政がいるイメージです。 仮に行政と戦うとすれば、大変な時間と労力がかかります。

ですから、日本のベンチャーの新事業は、法律事務所に相談するのは当然ながら、そこで法的にOKだと思っても、念のため、正面から規制当局に丁寧に事前相談するべきです。そこで行政からNOと言われたら、ネット選挙の例ではないですが、実現に10年はかかるからもう諦めて、次のプランを考える、というスタンスが一番合理的だと思います。

私は昨年の行政処分をきっかけに遅ばせながらこういう日本の現実を知ったので、直ぐに頭を切り替えて、個人投資家の為になる新しいビジネスモデルを再考して、スクラッチから金融当局に相談して、新しい登録(ライセンスのこと)を取りに行くという動きをしました。


2点目は、情報の開示の仕方が良くなかったこと。

アブラハム・プライベートバンク株式会社の会員制投資助言事業は、国内の金融法令の関係上、海外ファンドの名称や具体的なパフォーマンス等をHP等で公にすることはできない状況でした(情報を出すと、金融商品取引法上、法令違反となる可能性が高い) ですから、アブラハムが提供する投資情報の中身は、会員様しか分かりません。

その状況の中、テレビCMをして会員を募ることにしたのですが、そうするとターゲット以外の層にも広く、当社サービスが知られることになります。そこで不正確な情報がネット上でたくさん生まれてしまって、自社のレピュテーションが大きく下がってしまいました。「ネットのデマに公に反論すると法令違反、何もせずに放置すると書かれ放題」で、為す術がない状況でした。

またアブラハムグループは創業者の私が9割以上オーナーシップを持つ非公開企業なので、上場企業のような情報開示義務も無く、そのため自社に関する情報開示について、それほど積極的にする必要はない状態でした。世間からすると謎の会社が突然急成長して、テレビCMをやったりして目立つと、怪しい会社と思われてしまいました。

「人々が知りたいと思う度合い」×「情報の少なさ」=「デマの発生・規模」という公式が民俗学にあるそうです。アブラハム・プライベートバンクで言えば、「テレビCM」×「法令上、情報非公開&未公開企業」=「ネットで炎上」となってしまい、これは失敗でした。

起業を志す学生さんにアドバイスをするとすれば、「前例の無いことにチャレンジする場合には、一般の人に多く知られる前に、先に上場してください」ということです。上場して「経営の透明性」を確保した上で、テレビCM等を仕掛けて、一勝負をするのが良いと思います。


さて、最後に、私のように大きく転んでしまった場合に、ドアの前で倒れ込んだその夜から、どう立ち上がるかについてです。

アブラハム・プライベートバンクが無事、今年業務再開を果たした時には、「6か月間もの業務停止処分を受けて生き延びた投資助言会社は過去1社も無い」と投資顧問業協会に驚かれたくらいです。普通は、安易に社名を変えたり、海外に出て国内規制から逃げたり、信用を失い会社が潰れたりするようです。

私は今回の業務停止処分で、直すべき点は直し、正面から乗り越え、経営者としての成長に繋げようと考えて、金融業界のベテラン方を同社役員に迎える等して、粛々と対応をしていきました。

もちろん、悔しさと無念さは言い尽くせなく、処分後、3カ月間くらいは、毎日夜中はうなされます。
どうせ寝れないので、キンドルで本を注文しては読んでいました。体重も減るのですが、周りが心配するので、「ダイエットしてます」と言い張ってました。

昼は何事もないように堂々と仕事していたのですが、その姿を見て、「アブラハムの高岡は全く反省していないようだ」とか他の同業者に言われる始末。

今だから言えますが、色々謝罪を各方面にしていて、ずっと頭を下げているので、そのまま下を見つめていると、心が崩れ落ちそうになる。社長の自分が倒れればアブラハム社員も倒れ、全滅してしまう。アブラハムが倒れれば、数千人のお客様にご迷惑がかかる。だから意識して顔をあげて、上を見て、胸を張るようにしていたというわけです。


「どうして前に進む気になったのですか?」と良く聞かれます。

私の場合は、昨年の行政処分当時、社員が辞めなかったこと、9割以上のお客様が残ってくださったこと、その2つが心の大きな支えになりました。

そして、困難に直面した時には、創業時の志に立ち戻ることです。
そうすれば、自分が為すべきことが明確になり、前に進む勇気が湧いてきます。


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上記記事内容は、学生にお話ししたことをベースに各種情報を追加したものであり、大学講義での議事録と異なります。